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造成泉は、自然の温泉より劣るのか?——火山の蒸気と水から生まれる、もうひとつの温泉

泉質に関する読み物 — 成分・泉質名・分析表の読み方

2026年10月31日読了 11分
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造成泉は、自然の温泉より劣るのか?——火山の蒸気と水から生まれる、もうひとつの温泉

「造成泉」と聞くと、自然湧出ではない、人の手でつくった湯——価値が一段下だ、と感じる人もいます。源泉掛け流しや自然湧出を好む見方も、湯めぐりの文化の中ではよく知られています。

しかし造成泉=劣るとは言い切れません。違うのは「地下で完成してから出てくるか、蒸気と水を地上で接触させるか」という成り立ちです。入浴する側が知るべきは、湧き方のラベルより、できあがった温泉水の成分・温度と、施設の湯使い(加水・加温・循環・消毒)です。

箱根・大涌谷は、この論点を具体例にしやすい場所です。送湯パイプやポンプの詳細は別 note に任せ、ここでは概念・法律・化学・価値の考え方を整理します。

造成泉(蒸気造成温泉)とは

造成泉は、地下から取り出した火山性蒸気・ガスを、地下水や湧水などの水に接触させて温泉をつくる方式の湯です。業界・研究では蒸気造成温泉、蒸気井温泉などとも呼ばれます。

一般的な温泉は、雨水などが地下に浸透し、地熱や岩石・火山性流体と反応した水が、自然に湧出したり井戸で汲み上げられたりします。蒸気造成では、地上の設備で蒸気と水を混ぜ、熱と成分を移します。供給量を調整しやすい一方、蒸気井・造成装置・配管の維持が欠かせません。

箱根・大涌谷——概要だけ(詳細は別 note)

箱根・大涌谷では、箱根温泉供給株式会社が仙石原の水を揚水し、蒸気井の火山性蒸気と混合して造成します。できた湯は自然湧出分(総湯量の約30%)と混合され、仙石原・強羅方面などへ送られます。小田急箱根の早雲山・強羅系の蒸気井温泉も、別系統の造成供給です。

箱根全体が造成泉だけではありません。 湯本の掘削源泉、姥子の自然湧出など、経路は温泉地ごとに異なります。

送湯の距離・装置・硫黄の付着除去など、インフラの話は次の note に詳述しています。

→ geology-008:水を山に登らせて、温泉をつくる

自然湧出と蒸気造成——仕組みの比較

比較項目自然湧出泉(一般)蒸気造成泉(一般)
温泉ができる過程地下で水が温め・成分を得てから地表へ地下の蒸気と、地上で混ぜる水
水の由来地下水・降水など地下水・湧水など(造成用)
熱源地熱・深部流体など蒸気井からの高温蒸気・ガス
供給量自然条件・採取量に左右蒸気量・水量・運転で調整
維持源泉・揚湯設備蒸気井・造成装置・配管

自然湧出にも成因は多様で、造成にも方式・水源の差があります。自然だから必ず濃い、造成だから必ず薄いという関係ではありません。

大涌谷では、地点ごとに化学組成が違う

同じ大涌谷でも、自然湧泉・表流水・蒸気井の造成温泉では、イオン組成が異なります。神奈川県温泉地学研究所の調査が、その違いを繰り返し示しています。

菊川・萬年・本間(2018)「大涌谷における湧出水、温泉水等のモニタリング結果(2015〜2017年)」(温地研報告50巻)では、自然湧泉・表流水など多数地点と、52号蒸気井由来の造成温泉を継続分析しています。2015年の火山活動以降、地点・時期によって**塩化物イオンと硫酸イオンの比率(Cl/SO₄比など)**が大きく変動することが報告されています。

より早い調査(菊川、2002・報告34巻)では、自然湧泉・坊主地獄付近の水は、陰イオン当量の大部分が硫酸イオン(例:地点によって硫酸が97〜99%台)、塩化物はごく低い地点もあります。一方、箱根温泉供給の送湯分析では、大涌谷系の混合湯として塩化物と硫酸塩の両方を含む酸性系が知られます(例:供給会社が示す「大涌谷温泉」分析、各送湯線の名称)。

2017年には、52号蒸気井の造成温泉で電気伝導度上昇・pH低下・塩化物増が顕著だった、と関連研究(萬年ほか、2019 等)でも報告されています。火山活動・熱水変動と成分が連動しうる、という文脈です。

つまり、造成泉は自然湧出の「コピー」ではなく、蒸気と水の接触で生まれる化学的特徴を持ち、さらに混合・送湯で浴槽に届く成分はまた一段変わり得ます。分析表の読み方とあわせて見るのが安全です。

温泉法上の「温泉」か

温泉法は、温泉を「地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス」などと定義しています。蒸気やガスも温泉の源泉に含まれます。蒸気に水を加えて温泉水を造成する方式は、法の想定内であり、「温泉ではないものを勝手に温泉と呼んでいる」という話ではありません。

ただし法律上温泉であることと、浴用としての好み・品質は別問題です。法は優劣を決めません。

「劣る」か——湧き方と、湯の中身は切り分ける

造成は人の設備が介在します。自然湧出は、地下でできた水がそのまま地表に現れる体験(湧出量の季節変動など)に魅力があります(降水と湧出量も参照)。

一方、造成泉でも火山性蒸気由来の硫黄・酸性成分を含む湯になり得ます。大涌谷系はその典型例です。用水の割合が大きいと成分は希釈され、蒸気の性質・混合比・配管の酸化も最終的な分析値に効きます。

自然湧出にも成分の薄い源泉、湧出量の少ない源泉があります。造成にも、はっきりした成分的個性を持つ湯があります。「自然湧出=上、造成=下」では整理できません。

造成泉と「掛け流し」は別軸

湯使いの話と混同しやすい点です。

  • 造成泉 … 源泉の成り立ち(蒸気+水)
  • 掛け流し・循環 … 浴槽での運用

造成泉でも、放流式で循環・消毒をしなければ、運用上は「かけ流しに近い」利用が可能です。自然湧出でも、循環ろ過・加温・加水の施設は普通にあります。純温泉Dは「噴気造成泉をそのまま使う放流」という湯使いの型の説明であり、自然湧出の純温泉Aと対になる概念です。

関連施設(大涌谷系送湯エリアの例)

送湯契約は施設ごとに異なります。地理的・分析表上、大涌谷系の混合湯と結びつきやすい例として、次の施設ページから成分を確認できます。

まとめ——名前より、分析表と湯使い

温泉には、自然湧出・掘削揚湯・蒸気造成など、さまざまな成り立ちがあります。造成泉は人の手が入りますが、熱源と多くの成分は火山の地下に由来します。箱根では、水を運び、蒸気と出会わせ、自然湧出と混ぜ、長い配管で届ける——その技術と保守の上に、観光地の湯が載っています。

劣劣を決めるより、その湯がどうでき、分析表に何が書かれ、浴槽でどう扱われているかを見る方が、湯めぐりの判断には直結します。

関連するページ

参考文献・資料

  • 菊川城司・萬年一剛・本間直樹(2018)「大涌谷における湧出水、温泉水等のモニタリング結果(2015〜2017年)」神奈川県温泉地学研究所報告 50巻 69–93頁
  • 菊川城司(2002)「箱根大涌谷における湧水の水質調査結果」同報告 34巻 51–58頁
  • 神奈川県温泉地学研究所「噴気地帯の温泉」(観測だより72号、PDF)
  • 箱根温泉供給株式会社(hot_spring.html)

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