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酸性泉の湯虫——霧島温泉の極限環境生物

泉質に関する読み物 — 成分・泉質名・分析表の読み方

2026年9月2日読了 7分
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酸性泉の湯虫——霧島温泉の極限環境生物

霧島温泉の山あいでは、ぬるめの炭酸水素塩泉硫黄泉酸性泉の浴槽に、細長い小さな生き物がゆっくり動いているのを見かけることがあります。地元や常連では「湯虫」「温泉虫」と呼ばれることもありますが、実はこの呼び名には 2つのまったく別の生物 が混ざっています。

近年、霧島の酸性・硫黄系の温泉流域では、こうした生物の採取調査や動画記録が増え、未記載種に近いユスリカ類 が注目されています。本稿では、湯めぐりの目で見える「湯虫」の正体と、火山性温泉が育む極限環境の生き物について整理します。

「湯虫」と呼ばれる2つの生物

【A】温泉アブ(ミズアブ)の幼虫
 ➔ 体長1〜2cm前後。燕温泉の「河原の湯」などで有名
 ➔ 別名「オンセンアブの赤ちゃん」

【B】温泉ユスリカ(ユスリカ科チョウバエの幼虫)
 ➔ 体長2〜7mm程度の細い赤〜半透明の「芋虫」状
 ➔ 酸性・高温の温泉水に適応。通称「サンユスリカ」など

浴槽で 2〜3mm の小さな芋虫状の個体を見た場合、多くは Bの温泉ユスリカ である可能性が高いです。一方、手のひらほどの大きさに見える個体は、Aの温泉アブ幼虫のことが多いです。

どちらも 人に吸い付いたり刺したりすることはなく、温泉療法の対象となる人体への害は報告されていません。とはいえ、見た目の好みは人それぞれです。

霧島でなぜ生きられるのか

霧島温泉は、硫黄や遊離炭酸ガスを多く含む火山性温泉です。源泉付近の湧き出しや温泉川では、水温40〜50℃、pHが酸性寄りという環境がつくられます。普通の魚や水生昆虫は生きられませんが、耐酸性・耐熱性を持つユスリカの幼虫 だけが生き残り、繁殖できる——というのが大まかな仕組みです。

1930年代の調査(霧島・榮尾川流域)でも、酸性の温泉水が河川に流れ込むと、通常は見られないユスリカ類やヨコボウフラムシ類が 異常に多く繁殖する ことが記録されています。霧島の温泉は、古くから「極限環境の自然実験場」として知られていたのです。

川から採った温泉水でも生きていた——近年の記録

2024年ごろ、霧島の 50℃前後の酸性源泉 から採取した水を容器に移し、顕微鏡や動画で観察した記録が、昆虫系の動画チャンネルなどで公開され、大きな反響を呼びました。視聴者の中には「サンユスリカでは」と同定するコメントも多く、源泉そのものではなく、温泉川の採水でも個体が確認できた という点が重要です。

つまり、浴槽にいる個体は「入浴客が持ち込んだ虫」ではなく、源泉・配管・湯川を通じて温泉系統に定着した生物 である可能性が高いです。掛け流しの湯の花が舞うぬるめの炭酸泉でも、幼虫が漂うのはこの文脈で理解できます。

新種研究の動き——草津から霧島へ

酸性温泉のユスリカは、霧島だけの話ではありません。群馬・草津の湯川(pH2前後)では、未記載の Polypedilum 属 の幼虫が優占種として生息し、体内の微生物叢(マイクロバイオーム)が酸耐性の鍵ではないかと、2024〜2025年に論文が発表されています(Microbes and Environments, ME24090)。

霧島でも、2020年代に入ってから昆虫学者や動画制作者による 反復採集・形態観察・遺伝子解析 が進み、従来の河川生息種とは異なる個体群が報告されています。学会誌への 新種記載 が進行中、または未記載種として研究対象になっている段階と考えられます(公開論文の確認は今後の課題です)。

環境代表的な研究・記録
草津・湯川未記載 Polypedilum sp.、マイクロバイオーム解析(2024〜25)
霧島・温泉川・源泉50℃酸性水からの採取記録(2024)、歴史的な河川調査(1930年代)
九州全体温泉ユスリカの耐熱性研究(九州大学等)

温泉のハイドロバイオーム——湯に住む微生物と肌で紹介した湯の微生物と同様、ユスリカの幼虫も 共生細菌 を体内に持ち、酸性や重金属に耐える「生きたフィルター」として働いている可能性があります。

湯の花と見間違えないで

霧島の炭酸硫黄泉では、白い湯の花が大量に浮かびます。これは生物ではなく、温泉成分が冷えて析出した鉱物の粒子です。ブログなどでも「卵スープのような湯の花」と形容されることがあり、一瞬虫のように見えることもあります。

湯の花 ➔ 白くフワフワ、水流で一斉に漂う。触ると崩れる
湯虫(ユスリカ幼虫) ➔ 細長く湾曲、個体として自力で這う

迷ったときは、水面でゆっくり動くか、流れに任せて観察すると区別しやすいです。

入浴する側が知っておくこと

  • 無害であることが多い が、見た目が苦手な方もいるのは自然なことです。
  • 施設によっては採取・持ち帰りを禁じている場合があります。観察はその場で、記録は写真やメモにとどめましょう。
  • 「湯が汚い」という評価と、「極限環境の生態系が生きている」という評価は、同じ現象の両面です。源泉かけ流しの湯ほど、外部からの生物ではなく 温泉系統に馴染んだ生物 が見えることがあります。
  • 酸性泉や高温の源泉では、皮膚の刺激とは別問題として、開放傷があるときは入浴を控えるなど、掲示の禁忌を優先してください。

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